ヒトはいかにして悪魔になるのか
メフィストフェレスが語る
「たましいを売る」とは(3)
悪魔の世界とは、そういうところなのですよ。
“ 俺一人、私一人 ” になった時すでに、あなたがたは悪魔と化しているのです。
悪魔の世界を、甘くみているのではないですか?
悪魔がなぜ、人間の心のあいだを渡り歩いているのかも、お分かりになったでしょう。
それほどまでに人間は、みずからの才能や、その成果というものに対して弱い。あるいは甘い。
つまり、本当の悪魔というものは、どこからあらわれるのでもなく、あなたがたの内に座を占めて、あなたがたを支配するようになる、実体のないものです。
―歴史上の偉人とされたものたちが、いかにしてその力を手に入れたのかも、これで明らかでしょう。
特段の儀式などなくても、悪なる力を手にすることができるのです。
人間は、その心さえあれば。
それが「たましいを売る」という意味です。
このあたりが、新約聖書にはイエスのことばをとおして、じつによく書かれています。
聖書が世にひろまり、悪魔についての作品も数多く世に送り出されるようになったのには、そういう背景があります。
あのイエスの心の揺れは、悪なる力に触れたものの揺れにほかならない。
それは、彼と同じ経験をしたからといって、分かるものでもない。
人間は、心さえあれば、あらゆるものを、ものごとをつくりだすことができる。
そういうことです。
(次回につづく)
2023.7.21記